04号東大寺

仏教新発見・第4号
『東大寺』
発行:朝日新聞社
定価:580円

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第4回 原始仏教の様相

五戒・縁起・四諦・八正道
イラスト ヨシザワスタジオ

 苦行を止めたブッダは菩提樹の下で瞑想に入り、悟りを開いた。その直後に通りかかり、食べ物を布施したいと申し出た二人の商人が、仏教史上最初の在家信者とされる。そして、初説法(初転法輪)の際に、それを聞いて悟った五人の比丘が、仏教史上最初の出家修行者とされる。その後も、ブッダとその弟子たちの布教により信者数は増大し、徐々に組織化が進んで、サンガ(僧伽)と呼ばれる仏教僧団が成立した。

 出家修行者には、二百五十戒を受けた比丘(男性出家修行者)と三百四十八戒を受けた比丘尼(女性出家修行者)があり、別々の僧団を運営していたが、比丘尼僧団は常に比丘僧団の指導下に置かれていた。また、比丘のもとには沙弥、比丘尼のもとには沙弥尼、およびその一変形である式叉摩那という見習いがいた。一般に出家者といった場合には、この五種類のうちのいずれかを指す。一方、在家信者は男性が優婆塞、女性が優婆夷と呼ばれていた。彼らは仏・法・僧の三宝に帰依することによって在家信者として認められ、普通はその直後に五戒の受持を誓った。そして、出家修行者は説法を通じて在家信者を教え導き、在家信者は経済的な面で出家修行者をサポートするなどといったように、両者の間には相互依存の関係が成立していた。

 原始仏教僧団は、ブッダの入滅後およそ百年にわたって統一を保っていたが、組織の拡大や時代の変遷に伴って、様々な点で意見が分かれるようになった。なかでも、教団の規則をめぐって保守派の上座部と進歩派の大衆部の間に生じた対立は非常に大きく、原始仏教僧団は大きく二つに分裂してしまった(根本分裂)。その後も、地域差や教義の差によって、さらなる分裂(枝末分裂)を繰り返してゆき、二百年から三百年の間に、最終的には約二〇の部派に分かれた。そして、各部派が様々な解釈を行い、相互に自らの正統性を主張する部派仏教の時代に入っていった。

相手に応じて教えを説く

 原始仏教の根幹をなす重要な教えとしては、ブッダが菩提樹の下で悟ったとされる縁起の教えと、初説法で説いたとされる四諦・八正道の教えを挙げることができる。

 縁起の教えは、人間の根本的な無知(無明)から老いや死という苦しみ(老死)へと至る一二段階のプロセスを因果関係でもって明らかにした理論である。一方、四諦の教えは、1人生は苦しみに満ちているという真理(苦諦)、2苦しみには原因があり、それは欲望であるという真理(集諦)、3苦しみの原因を取り除けば、涅槃に到達するという真理(滅諦)、4涅槃に到達するための実践方法があるという真理(道諦)という四つから成る。そのうちの道諦が、正しい見解(正見)、正しい考え方(正思)などの八つの正しい道から構成されており、八正道と呼ばれている。

祇園精舎
インド中部、シュラーヴァスティーの祇園精舎跡。ブッダが説法を行った場所とされる。
写真 田村 仁

 以上のほかにも、応病与薬(病に応じて薬を与える)という言葉もあるように、原始仏典のなかのブッダは相手に応じて、時に優しく、時に厳しく、様々な教えを説いたため、原始仏教の教えは非常に多彩である。

(文・堀田和義◎東京大学大学院博士課程)